勝つときは汚く 負けるときは美しく

ふと気がつくといつも似たような話をしているので書き留めておきます

【コンテ・インテル回想】断腸の思いを込めて②

 コンテのチームはいつもかなり個性的というか、渋いけど面白いと思ってるんですが、あんまり人気はないですね。

 

 人気がない理由は、わりとパターナルなんですよ。アメフトみたいな考え方で、決め打ちが多い。サッカーって、なにせ脚でやるんでどうしたって不確実性の競技で、だから他の球技に比べて得点が少ないし、パターナリズムに嵌りにくい。そこが面白いところだから、コンテのパターナルなチーム作りはあんまり人気でないですね。私は好きですけど。

 いくつかコンテっぽい特徴挙げてみます。

 

①気持ちは4トップ

 もともとコンテはパドヴァとかユヴェントスの最初の方とかは4-2-4とか言われてましたね。

 4-2-4といっても中盤がずっと2人のはずがないんで、まぁようは4-4-2なんですけど、両サイドを出来るだけ高い位置に早めに進出させるってところがコンテの意図なのかなと。なので4-2-4か4-4-2かというのはコンセプトレベルというか、選手の意識の持たせ方なんだと思います。

 4-4-2の中盤両サイドがポゼッション時に早いタイミングで前線と同じ高さまで上がっちゃうと、組み立てには参加できないから。中盤はスカスカになってボール回して組み立てっていうのは難しい。それでも4-2-4を選択するっていうのは、ようは相手の守備ラインと同じ高さに4人以上並べたいんだと思います。それもファーサイドもアウトサイドレーンに残して、出来るだけ広く位置どる。

 最終ラインに4人入ってこられたら守る方は最低4人の同数、定石でいえは5人残さないといけないですよね。それも両アウトサイドに張ってるんでサイドバックは上がりにくくなってピン留めされる。戻りきれてなかったら中盤の誰かがカバーしなきゃならないんで、今度は中盤が空く。ようは自分の中盤はスカスカになるけど、相手の中盤も空いてくると。中盤を制するというより、中盤自体を無くしちゃうという発想。

 両サイドに選手を攻め残らせて相手のDFをピン留めするのは多分クライフが始めて、グアルディオラもよく使う手ですね(この前のCL決してでもやってました)。ただクライフはそれで中盤、特にバイタルを空けて、そこでポゼッションするためなんですけど、コンテの発想は逆で中盤を省略するためなんですよね。

 

②縦パスとパターンプレイ

 じゃあ中盤省略してどうやってボールを前に運ぶかというと、そこが結構決め打ちのパターンプレイになっていて、ディフェンダー+αからの縦パスを前線の4人に入れて、それを回収するのが中盤の仕事。

 それがアバウトなロングボールにならないように、どこから誰に縦パスを入れて、それを誰が回収してシュートまで持っていくみたいな決まり事がカッチリ決まっている。だから選手もわりと得意なことがハッキリしているスペシャリスト系が多くて、だからコンテのチームにいる選手は似てくる(笑)。

 ユーヴェでも最初の方は4-2-4だったけど、途中から3-5-2になって、その後はイタリア代表でもチェルシーでも基本同じやり方になりましたね。

 3バックに変えたのは、ユーヴェにはボヌッチっていう長い縦パス蹴らせたら多分世界一のセンターバックと、恐らく史上最高のレジスタであるピルロという、ロングパスのスペシャリストが2人いたからだと思います。

 この2人に縦パスを余裕を持って入れさせるためには最後尾でのポゼッションを確立した方がいい、だから3バックの方が安定するっていうことだったと思うんです。

 4バックだと、2センターバック+キーパー+ピルロの4人でボールを回す感じになって、またキーパーがブッフォンであんまりパス回しが上手くないから、ちょっと余裕がない。3センターバック+キーパー+ピルロなら5人でポゼッションできるんで、相手がプレッシングかけてきても、前線に残してるのは大体2人、多くても3人で2人の数的優位があるから、まず余裕でかわせる。

 ユーロのときとか、最終ラインとピルロのユニットはユーヴェと全く同じで、これにジャッケリーニキエッリーニ脇まで降りてきて、前線のペッレの頭めがけてフリック気味の縦パスを送るパターンとかあって、そういう決めうちの多さは、ちょっとビエルサにも似てるかもしれない。

 3バックにして以降のコンテのチームには基本的に縦パスの出せるセンターバックと、それを最前線で収められる屈強なセンターフォワードという組み合わせが必須になりましたね。インテルでいえば、デフライルカク。2トップのもう片方はセンターフォワードが収めた縦パスを回収できるセカンドトップで、俊敏で狭いスペースでボールをコントロールできる、いまでいえばまさにラウタロですね。ルカクラウタロのペアは滅茶苦茶コンテっぽい。アッズーリでのペッレとエデルの上位互換って感じです。すっかり衰えちゃって全然点が取れなくなったアレクシス・サンチェスをコンテが意外に重宝しているのも、ルカクとの組み合わせでいえばベターなんだと思います。

 

③誰かがきつくなるのがコンテ流

 4-2-4のときの前線両サイドアウトサイドの原則が3バックになってどうなるかというと、つまり3-3-4になるわけですね。両ウィングバックに高い位置どりを要求する。チェルシーのときもそうですけど、これをコンスタントにこなせる選手というのが非常に難しい。

 3バックといっても、守るときは3人じゃカバーしきれないからウィングバックが最終ラインまで戻らなきゃならない。つまり3-3-4と5-3-2を行ったり来たりしなきゃいけないわけで、体力的にこれをやり切りながら前線でアタッカーとして振る舞える選手なんて、そうそういないわけです。サイドバックの選手なら体力はあるけど、高い位置に出たときに技術的にもアイデア的にも手詰まりになることが多い。チェルシーのときは本来アタッカーのモーゼスをここで使ってましたね。モーゼスは純粋なアタッカーとしては下手だけど、走力とスピードがあって、サイドバックよりは崩しの局面でも期待できるんで、ウィングバックで嵌まりましたね(インテルではダメだったけど)。

 コンテのチームは特定のポジションの選手への負荷が凄いんですよね。4-2-4のときだったら中盤の2がきつい。縦パスのセカンドボールの回収をしないといけないし、ネガティブトランジションになったらすぐにプレッシングに入って、さらに広大な中盤を2人でカバーしないといけない。走り倒しですよね。ここ3人でもきついと思います。

 3-5-2のときは一番きついのは両ウィングバックでインテルの1年目はここの人材を得るのに苦労しました。前半戦はベテランのカンドレーヴァが意外に頑張ってくれてたんだけど、シーズンフルにやるのは土台無理で、冬にモーゼスをレンタルしたり、困ったときのダンブロージオ頼みで、なんとかやり繰りしたけど、ここに適材を得ないとただの5-3-2になるんで、結局ラウカク頼みのサッカーになっちゃいましたね。

 今季でいえば、左ウィングバックはペリシッチがちょうど前期のカンドレーヴァみたいに気を吐いてくれたけど、ベテランにこのポジションをフルは無理なんで、ダルミアンやヤングとのローテーションでやり繰りしてました。前期との大きな違いは右ウィングバックにハキミを補強して、これがバッチリ嵌ってくれて、シーズン通して固定できたところですね。

 ハキミはまだ若くて走力が抜群。なんといっても滅茶苦茶脚が速い(笑)。前半戦はどちらかというとカウンターで効きまくってましたね。ハキミのいいところは脚が速いだけじゃなくて、カウンターのときにダイアゴナルに走って自分でシュートまで持っていけるところ。ウィングバックの選手で内側のレーンに入ってこれだけ仕事のできる選手は貴重だと思います。サイドバックだとなかなかここまで入っていけないからウィングバックは天職なんじゃないでしょうか。

 ただしコンテは守備に関しては横のレーン移動は好まないみたいですね。縦の運動量はすごく要求するんだけど、例えば相手のレジスタのマークにいくのは一番遠い自分側のレジスタのブロゾビッチだったりして、そこはエリクセンあたりが横にズレていけば走る距離が少なくて済むのにとか思うんですが、縦のレーンの受け持ちをずらしたくないんでしょうね。なので守り方はカバーリングよりもまず自分のレーンでマッチアップする相手をデュエルで掴むというのをすごく意識してるようにみえますね。

 

④今季の肝は3バック

 本来コンテがやりたいのは前線に4人が並ぶことで、インテルでいうとラウカクの外側にウィングバックが入って欲しいんですけど、前半戦はできてなかった。なぜかっていうと組み立ての質が低くてカウンター頼みになってたから。だからハキミのスピードが活きるのはいいんですけど、やりたいのは違うサッカーだったと思うんですよね。

 前期からの懸案だったエリクセンの使い方が徐々に定まってきて、崩しの局面よりもビルドアップのときにブロゾビッチと並ぶ形が嵌ってきたお陰でボールを回せるようになって、ラウカクにボールが入ったときにバレッラが早めに絡みにいくことで、ラウカク一辺倒だった攻めに多少変化がつけられるようになったのがひとつ。

 コンテのサッカーは縦パスとパターンプレイなんだけど、インテルの場合はラウカクの即興的なコンビネーションがパターンプレイよりも良すぎて、かえって攻め手が少なくなっていた。

 典型的なトレクァルティスタのエリクセンを入れたものの、彼には彼の即興的なアイデアがあって、それとラウカクのテンポが全然合わないという問題を前期は抱えていたと思うんですね。今季はエリクセンをブロゾビッチと並べて、ラウカクに絡みにいくのがエリクセンよりはるかにインテンシティの高いバレッラになったことで、そこはある程度形になった。本来コンテの中盤は縦パスの落としを回収するのが一番大きいタスクなんで、バレッラとブロゾビッチはそこをこなしながら崩しや組み立てに絡めるんだけど、そこでいうとエリクセンはやっぱり弱い。ただブロゾビッチの負担は減ったし、前よりボール持てるようになったんでバレッラが崩しに絡みにいく頻度も上がったという間接的な効果はあったのかなと。

 

 中盤やウィングバックよりも、今季最もインテルのストロングポイントになったのは3バックのところだと思うんです。

 前期はゴディンというウルグアイ代表のセンターバックを補強したんだけど、これが最後までうまく嵌まらなかった。コンテのサッカーは中盤を出来るだけなくして2ラインみたいな形に相手を巻き込むんで、ボールを前に送るのはディフェンダーにやって欲しいわけです。ゴディンも下手な選手ではないんだけど、コンテの要求していたのはもっとアグレッシブなプレイで、センターバックがボール持って、相手が寄せて来なかったらドリブルでドンドン持ち上がってスペースを前に作ってから縦パスを入れると、そこは結構リスクとってやれよという仕事を、ゴディンはなかなか飲み込めなかった。

 シュクリニアルも同様になかなか嵌まらなくて、むしろ若いバストーニがそういうプレイをどんどん出すんで台頭した。守備者としてはゴディンやシュクリニアルの方が遥かに経験豊富で堅いんですけど、コンテはバストーニのリスクをとるプレイを評価したんだと思います。その辺のチャレンジに対してコンテはかなり寛容というか、バストーニは結構自分で持ち上がってボール失ったりしてたんですけど、それで外されるようなことはなかったですね。

 ハンダノビッチオールドスクールなキーパーで、本来パス回しとかに入るようなタイプではないんですけど、かなり危なっかしい場面が多くても、本人が果敢に勇気を持って挑戦するんで、コンテもそこは辛抱強く起用し続けたり、この辺りのコンテのブレなさが今季は結果に結びついた感じはありましたね。

 ゴディンみたいな経験豊富なセンターバックからすれば、自分のところでボールロストするっていうのはとんでもない話なんで、どうしてもそこで染み付いたプレイから切り替えられなかったんだと思います。シュクリニアルも前期は苦戦していたけど、今季に入って徐々に慣れてきて、3バックが固定できて、かつ最終ラインからの組み立てが形になったのは前期からの一番の変化だったと思います。

 今季は組み立てだけじゃなくて、例えばウィングバックとインテリオールとセンターバックでトライアングルを組んで、ウィングバックが内側のレーンに入ったときはセンターバックが外に開いて、インテリオールがカバーリングポジションをとるみたいな崩しの形がオートマチックに出るようになって、中盤はセカンドボールの回収とそこからの再展開に集中できるようになった。3バックを含めた全体の攻撃への関与度が上がったことで、ボールを前に運ぶ質が前期よりあがったと思います。こういうディフェンダーのタスクがマルチ化するのを最近のドイツではハーフディフェンダーとか言うらしいですね。チームに対する印象も、ちょっと実験的というか、他の球技の方法論を取り入れたような極端なやり方を採用するところとか、ライプツィヒとかザルツブルクとかのレッドブルグループのチームに近いものを感じます。

 

 総じて、前期からの試行錯誤の結果として、コンテのサッカーで徐々に適材を適所に得るようなってきた。補強が嵌ったところもあるし、メンバーが同じでもうまく適応できるようになったというところもある。ただ全体としては層が薄いというか、バックアップまで含めて適材適所になっているかというと、そこは厳しくて、CLで早期敗退して(ELにすら進めなかった)試合数が減ったことで、層の薄さという問題がそれほど顕在化しなかったということでもあるかなと。そういう意味では、コンテは本質的にはメガクラブよりも若くて無名の選手が多いチーム、たとえばビエルサのリーズみたいなところが合ってるのかもしれません。同じチームであんまり長続きしないところもビエルサに似ているし。

 

 コンテが退団しちゃったのは残念でしかありませんが、諸々ちょっと仕方なかったかなとも思います。なんといっても10年ぶりのスクデットですからね、感謝しかありません。選手からの支持が高いんでチームが空中分解しないか心配ですが、うまくコンテの遺産をインザーギが継承できるといいですね。