勝つときは汚く 負けるときは美しく

ふと気がつくといつも似たような話をしているので書き留めておきます

【謎解きジオン①】グフはザクとは違うのか?前編

 宇宙世紀に生きる者なら誰でも一度は抱く疑問にガチンコで挑む不定期連載企画【謎解きジオン】。第1回は「グフはザクとは違うのか?」です。

 

 ジオニック社のMS-06FザクⅡを始めとする06シリーズは一年戦争中最も多く生産された(約4,000機)、ジオン製MSを代表する名機である。しかし一年戦争が長期化し戦線が地上に拡大するに及んで、抜本的に重力下での戦闘に最適化された機体が求められるようになった。そうしてザクの後継機として期待され、同社が開発した陸戦用MSがMS-07Bグフ等の07系統である。

 

 グフをザクとは違うのだよ、ザクとは」と喝破したのは宇宙攻撃軍のエース、グフ乗りの代名詞とも言える青い巨星ランバ・ラル大尉。なにしろラル大尉の乗機のパーソナルカラーがそのまま制式採用されているくらいだから、やはりグフと言えばラルである。

 そのラル大尉の搭乗するグフと対戦したアムロ・レイもファースト・コンタクトで「こ、こいつ、違うぞ…ザクなんかと装甲も、パワーも…」 と洩らしている。一年戦争屈指のエース・パイロット2人が違うと言っているくらいだから、やはりグフはザクとはなにかが違うのだろう。ラル/グフとの最初の交戦を経たアムロはシミュレーションでそれまで戦ったザクのデータに対してグフを120%増しと評価している。

 

性能諸元の比較

 実際、アムロの評価はどの程度正しかったのか。比較の対象は陸戦用に改修されたザクMS-06Jとランバ・ラルが搭乗した試作型のグフYMS-07Bである。

 

MS-06JザクⅡ陸戦型/YMS-07Bグフ試作型

【全高】 18m/18.7m(3.8%増)

【全備重量】 70.3t/75.4t(7.2%増)

【装甲材質】 超硬スチール合金

【出力】 975kw/1,034kw(6%増)

【推力】 45,400kg/40,700kg(10.4%減)

【最高速度】 時速85km/99km(16.4%増)

 

 データ面で比較するとグフはザクより4%ほど大柄で、ジェネレーター出力が6%増しになっており、アムロの印象通りパワー面でのザクとの違いは若干認められる。逆にスラスター推力ではザクを10%下回り、重量も7%増しているが、最高速度は16.4%向上させている。

 グフはザクの後継機ながら新造パーツが60%を占めており、ラジエーターの大型化による冷却効率の向上、燃料タンクや無重力区域用の装備の削減など重力下戦闘に最適化された形で再設計することで、ザクに比べて重装甲かつ高機動を目指した機体といえる。

 装甲材はともにジオン製MS定番の超硬スチール合金となっており、材質面で違いはみられないが、デッドウェイトを廃して重量の増加を抑えつつ要所要所の装甲を厚くし、重力下での機体バランスのリファイン、ジェネレーター出力の増加、冷却効率の向上などによって機体自体の運動性能を増すことに成功している。

 

 ザクがスラスターの推力に依存する空間機動の考え方を残していたとすれば、グフは大胆に自らの脚で「走る」ために造られたMSであり、開発史上に位置付けるならば、宇宙から地上へ主戦場が移行した戦局で、本来空間戦闘用の兵器として生まれたMSの重力下での機動コンセプトをジオン開発陣が模索した結果生まれた機体とも言える。

 この辺りは局地戦用MSの面目躍如たるところがあるが、グフのコンセプトはツィマッド社のYMS-15ギャンなど一部の通好みの機体に継承されたものの、ホバー走行という技術革新や再び宇宙に移行した戦局の変化もあり、ジオンMS開発の主流はドムや高機動型ザクといった大推力の機体に回帰していき、グフの示した可能性が充分に開花させられることはなかった。ジオニック社のライバルであったツィマッド社のギャンにグフのコンセプトが引き継がれ、主力機コンペでゲルググに敗れたのも皮肉な経緯ではある。むしろガンダムやジム・ストライカーのような連邦製の白兵戦用MSの方がグフのコンセプトに近かったかもしれない。これは連邦軍のMS開発が当初地上を想定して進められたために、結果として似通った重力下での戦闘ドクトリンが採用されたためと考えられる。この問題はのちにまた検討したい。

 

 しかしどうだろう。率直に言ってデータ面からは「ザクとは違うのだよ、ザクとは」と喝破するほどの性能差がグフとザクにあったのかというと微妙な印象を受けないだろうか。単純な性能諸元の比較では「ザクの120%増し」とは言い難く、アムロが再戦した後に述べた通り、「ザクとは違」ったのは、あくまでラル込みのグフだったと言う方が正しいだろう。

 

固定兵装の問題

 そもそもグフは評価の難しい機体である。生産数は200機程度と言われており、一年戦争を通じて4,000機が生産されたザク・シリーズに比べると、主力機として後継足り得たとは言い難い。特に評判が悪いのは、その固定兵装である。

 

【YMS-07Bの武装

 ヒート・サーベル
 グフ・シールド
 ヒート・ロッド
 5連装75㎜フィンガー・バルカン

 

 グフの基本的な運用方法は近接距離での白兵戦闘である。完全なインファイターであって、そのためにスラスターを吹かして動き回るよりも脚を止めて叩き合うスタイルに特化している。そしてそのコンセプトに沿ってザクの武装をヴァージョンアップした標準装備がヒート・サーベルとグフ・シールドである。

 

完成度の高いヒート、サーベルとグフ・シールド

 ヒート・サーベルはザクの標準兵装であるヒート・ホークを大型化したもので、ヒート・ホークが本来対艦戦闘用の近接攻撃を想定し、バズーカやマシンガンを主武装としたときの補助兵装だったのに対して、陸戦兵器であるグフのヒート・サーベルは明らかに対MS戦での白兵戦を意識した主兵装である(地上で戦車や戦闘機との白兵戦は想定しづらい)。脚を止めての叩き合いなら得物の長さが物を言うのは古今東西変わらない。

 

 グフ・シールドも同じく近接距離での防御を想定してザクのショルダー・アーマーよりも大型化しており、さらに言えばショルダー・アーマーがザクの右肩に固定されていたのに対して、グフ・シールドが左腕に装備されているという微妙な仕様上の差異は、地味にグフとザクの運用思想が違ったものであることを端的に示している。

 ザクがショルダー・アーマーで防御姿勢をとれば、ヒート・ホークにしろザク・マシンガンにせよ、通常右腕に持っている武器は使えない。つまりショルダー・アーマーは専守防衛を前提としている。またザクの左肩にはスパイク・アーマーが固定されていて、運用イメージとしては右腕に装備した火器での牽制射撃、あるいはショルダー・アーマーで火線を防御しながら接敵し、推力を乗せてタックルを喰らわすという意図だったのだろう。

 あるいは、ザクのショルダー・アーマーに関しては南極条約以前のザク・バズーカが戦術核弾頭装備だったことと関連している可能性がある。のちの話ではあるが、U.C.0083のデラーズ紛争のときに連邦軍観艦式を襲撃した戦術核装備のRX-78-GP02ガンダム試作2号機も発射後の衝撃を回避するために特製のシールドを携行していた。ザクのショルダー・アーマーも戦闘時の防弾装備というより核使用時の対ショック防御を想定していたのかもしれない。05にはショルダー・アーマーがなく、06から標準装備とされていたのにも、シールド使用時に攻撃姿勢がとれないという仕様とも整合性もとれる。

 合理的かはともかくとして(実際、ザクがショルダー・タックルを喰らわしているシーンは少なく、赤い彗星シャア・アズナブル少佐とMS格闘戦の草分けガデム大尉くらいしか記憶にない)、これらザクの標準兵装からは近接距離での同機の運用思想が叩き合いではなく、(艦船や戦闘機に対して)相対的に優勢な機動力を活かした一撃離脱だったことを示している。これは宇宙空間を戦場として、まだ連邦軍がMSを持たなかった一年戦争初期の戦闘状況とも合致している。

 それに対してグフ・シールドとヒート・サーベルの組み合わせは、脚を止めての叩き合いを想定し、左腕のシールドで防御をしながらリーチの長いサーベルで格闘戦を優位に進めるという意図によって設計されており、その条件下なら大推力よりも叩き合いに耐え得る重装甲と機体自体の持つ運動性のプライオリティが上がることは理解できる。近接距離での格闘戦という特定のシチュエーションに特化し過ぎているきらいはあるが、その問題はのちにまた検討することとして、ヒート・サーベルとグフ・シールドは想定された戦闘状況に対する合理性をそれなりに備えた兵装だったと評価できる。

 

 問題は、グフをワンアンドオンリーな存在にしている固定兵装のヒート・ロッドと5連装75㎜フィンガー・バルカンである。

 

 思った通りというか、想定以上というか、書き始めたら長くなったので、中編に続きます。