勝つときは汚く 負けるときは美しく

ふと気がつくといつも似たような話をしているので書き留めておきます

【CL決勝所感】結局一番いいチームが勝った

チェルシー、勝ちましたね、CL。

 

 プレミアリーグのクラブの中ではわりと好きなんですよ、チェルシー

 イングランドでは珍しくイタリアの影響を強く受けてるチームで、90年代にグーリットとかヴィアッリがプレイングマネージャーをやったり、選手としてもジャンフランコ・ゾラディマッテオらのイタリア代表や、ミランのレジェンドだったデサイーもいましたね。

 我らがラニエリさんも監督してたし、アブラモビッチさんがオーナーになった全盛期の頃の監督はモウリーニョだったりで、イングランドのチームとしてはかなり戦術的に洗練されているイタリアっぽい伝統があるんで好きなんですよ。

 

 ただグアルディオラとクロップの二強時代になって以降、プレミアも戦術面で急激に高度化してるんで、イタリア的な伝統ももうあんまり特徴とは言いがたくなってきてましたが、トゥヘルが今季途中から就任してまた面白いチームになってきたなと。

 

 この試合も、結果としては1-0でチェルシーの逃げ切りといえばそれまでなんですが、まぁ渋い試合で、結構楽しめましたよ。いくつかポイント挙げます。

 

 

①両アウトレーンのマッチアップ

 攻め方の発想はお互い似ていて、シティはウィングのスターリングとマフレズがアウトサイド一杯に張ってチェルシーの5バックのピン留めを試みる。

 センターはデブルイネが偽9番的に入って、彼がバイタルに引けばチェルシーセンターバックが3枚浮いちゃうんで、シティは好きにボール回せると。センターバックがデブルイネを捕まえようと前に出たら、ズレたところにインテリオールのフォデンやベルナルド・シルバが入り込むか、大外のスターリングやマフレズがダイアゴナルに走り込む、そういう攻めのイメージだったんだと思います。

 

 チェルシーの方もハフェルツとマウントがアウトサイドに張る形で、ただ中はヴェルナーでここはシティと考え方が違って徹底した裏狙い。ヴェルナーは今季点取れないで酷評されたりもしてましたけど、この試合では動きはよかったですね。お互いに前線のアウトレーンに選手を張り付けて幅と深さを取ろうとする発想は似ていた。ただ守り方と、使いたいスペースがかなり違いましたね。

 

②最終ラインの構成

 シティの守備はスタート4バックなんだけど、ポゼッションしたら左のジンチェンコ が偽サイドバック的にアンカーのギュンドアンの脇に入って、右のカイル・ウォーカーストーンズ、ルベン・ディアスが3バックを構成する。なので、マッチアップ的には右からウォーカー対マウント、ストーンズ対ヴェルナー、ルベン・ディアス対ハフェルツという3対3の数的均衡になる。まずこの噛み合わせがあんまりよくなかったようにおもいます。

 

 チェルシーの両サイドのハフェルツとマウントは、シティのウィングとは全然違うミッドフィルダータイプで足元にポールが収まる。この2人がアウトサイドに張って3バックの外側を引っ張って距離があるんで、ストーンズの周りがガラガラになってヴェルナーは好き放題走れる感じ。

 ストーンズカバーリングバックタイプで割と重いんですよね。対するヴェルナーは広範囲に走り回るしスピードもあるんで捕まえきれない。ファーストディフェンダーとしてもよくプレッシングするんでストーンズの持ち味であるロングフィードも封じられてましたね。まぁシティはGKのエデルソンが一番ロングパスが上手いんでそこに流せはするんですけど。

 右のカイル・ウォーカーはもともとサイドバックなんでスピードもあって広範囲に走れてパワーもあるんで、マッチアップするのがウィングタイプならもっと効いてたと思いますけど、マウントは典型的な10番タイプなんで、ここもあんまり噛み合ってませんでしたね。左のルベン・ディアスは万能タイプなんですけど、これも結局ハフェルツに引っ張られて外に張り出すことが多かったんで良さが出てなかったように思います。

 アンカーがフェルナンジーニョだったらストーンズの周りのスペースをもうちょっとケアしてくれたかもだけど、ここにギュンドアンが入ってたんで、ヴェルナーはガンガン走れる感じでした。ジンチェンコ はフォデンがある程度自由に動いてできたスペースを埋める役割だったのかなと。

 シティはファーストディフェンダーを超えられたらジンチェンコ が左サイドバックに落ちて4バックに戻すんだけど、そもそもチェルシーの攻めがほぼ速攻オンリーなんで、結局シティの最終ラインはほとんど3対3の局面が多かったですね。

 

 チェルシーの3バックは、右がアスピリクエタでここはカイル・ウォーカーと同じようなサイドバック系のストッパー、左はフィジカルモンスター系のリュディガー、真ん中がベテランのチアゴ・シウバカバーリングバック(前半でクリステンセンと負傷交代)という構成で、人的にはシティと似たような感じでしたが、そもそもシティの前線が真ん中を空けているんで、がっつりマッチアップするということがなく、それぞれが入ってきた選手を捕まえるという感じでしたね。

 

③アウトレーンのデュエル

 チェルシーの守備は完全に5バックで、シティの両ウィングに対して右ウイングバックのリース・ジェイムス、左のベン・チルウェルが1対1できっちりマッチアップする。ここの守り方がまずシティと全然違ってましたね。

 序盤は左のスターリングが何度かダイアゴナルにチェルシーの右ハーフスペースに走り込んで、そこにエデルソンからピンポイントのロングパスを飛ばしていいシーンを作ってましたけど、カンテがここのカバーリングをするようになってから消されましたね。

 シティの左ウィングのマフレズはチルウェルに消されてほとんど何も出来ず。ここはベルナルド・シルバでもよかったと思うんですけど、シルバがひとつ内側のインサイドレーンに入っていて、彼もどうしたってくらい存在感なかったですね。

 左に張り出すなら縦に強いマフレズの方がベターって判断だったのかもしれないですけど、この2人は使いたいスペースが同じサイドのハーフレーンで、この試合に関しては完全に打ち消しあってる感じになっちゃいましたね。ジェズスが入ってからはジェズスが右に流れてマフレズが内に入ったり少し形つくったけど、クリステンセンやリュディガーがカバーリングして崩れませんでした。

 

④ハーフレーンの消し込み

 シティが使いたいのはチェルシーの3バック手前のハーフレーン辺りのスペースだったと思うんですけど、デブルイネの偽9番でチェルシーの3バックが浮くはずが、早めの時間帯で負傷交代しちゃったのは不運でしたね。ただこの試合のチェルシーの3バックの出来をみるに、ハーフレーンはリュディガーやアスピリクエタが前に出て、さらにカンテも駆けずり回ってカバーリングして、最終ラインのスペースはクリステンセンが消してたので、デブルイネの負傷がなくてもなかなか崩せなかったんじゃないかな。

 

 シティではフォデンがかなり大きく動いてなんとかしようとしてたけど、チェルシーの(特にカンテの)チャレンジ&カバーがしっかりしていて、マークを剥がしてニアスペースを使うことができてませんでしたね。本来ここを使わせたら世界一のデブルイネに偽9番をやらせてた(すぐ怪我しちゃったし)のと、両ウィングがデュエルでことごとく劣勢だったのと、ギャンドアンがいつもより一個下のポジションだったのと、そういう幾つかの要因が重なって、シティは用意してた形にならなかった。

 後出しジャンケンの結果論だけど、マフレズかシルバのどちらかを外して(この試合の出来を見る限りシルバかなぁ)、アンカーにフェルナンジーニョを入れて、もしかしたらギュンドアンが偽9番でデブルイネがインテリオールでもよかったかも。わかりませんけどね。

 

④カンテで2〜3人分の仕事

 両ウィングバックはスターリングとマフレズに完勝だったし、ハーフスペースもカンテとリュディガーで制圧できてましたね。リュディガーはフィジカルモンスター系のセンターバックで、ありがちな話としてちょいちょいやらかすタイプだったんですが、この試合では最後まで物凄く集中してましたね。あとはカンテ。もともとバイタルでのカバーリングやらせたら世界一なんですけど、それに加えてポジティブトランジションのときには前線に飛び出す仕事もしていましたからね、もう完全に2〜3人分の仕事をしていました。

 もともとシティはネガティブトランジション時には最終ラインが3対3の数的均衡状態ですからね。ボール奪った勢いそのままに4人目のカンテに走られると、なかなか厳しいわけですよ。チェルシーのアウトサイドはマウントとハフェルツというボールもてるパサータイプだし。ジンチェンコ とギュンドアンだとなかなか捕まえきれないんで、そのまま最終ラインまで持っていかれる場面が多かった。カンテはほんとに効いてましたね。

 

⑤結局デュエルの差

 チェルシーの得点シーンでは、カウンターで左アウトサイドのマウントの足元にポールが入ったときに、ヴェルナーが中央から左斜め前(マウントの縦方向)にランニングしてストーンズを引っ張る。これでストーンズとルベン・ディアスとの間に距離が出来て、そこにハフェルツがダイアゴナルに走ったところにマウントから長めのスルーパス

 マウントにはカイル・ウォーカー、ハフェルツにはルベン・ディアスがそれぞれマークしていたけれど、両ウィングとも逆足ですからね。マウントのパスもハフェルツのコントロールも内向きに利き足で出来たんで、マークを剥がし切ってるわけではないんだけど、1対1に競り勝ってシュートまで持ち込めた。

 ハフェルツはバラックエジルを足して二で割った選手と聞いていたけど、確かにそういう感じありますね。左利きでテクニックがあって上背もある。ユーロで活躍すれば一気にスターになるかもしれませんね。

 

 シティの最終ラインの数的均衡はもうとるべきと判断したリスクだったとおもうんで(言うても一点しか取られてませんでしたからね)、デブルイネの負傷というアクシデントはあったものの、結局のところ局地戦でのデュエルでチェルシーが上回った結果なんだと思います。

 若い選手が多いチェルシーのコンディションとモチベーションがシティを上回ったとも言えるし、そもそもグアルディオラのチームには良くも悪くもそういう泥臭さが足りないですよね。後半マウントが足つらせていたような、そういうところがこのシティに限らず、グアルディオラのチームには少ない。その辺りがグアルディオラバルセロナ以外でなかなかCLをとれないところかもしれませんが、まぁそれがクライフイズムだから、それはそれでいいのかもしれません。クライフが足つらせながら必死で走り回ってるところとか想像できませんからね。それも美学ということでしょう。

 

 チェルシーはほんとに選手も監督も持っているもの全て出し切った上での勝利。シティは、こういう戦術や技術だけでは勝てないギリギリのガチンコ勝負を制するには、やっぱりちょっとだけ足りないんだなぁという、そういう印象でした。