勝つときは汚く 負けるときは美しく

ふと気がつくといつも似たような話をしているので書き留めておきます

ガルマ・ザビは坊やだから死んだのか?vol.3

 宇宙世紀に生きる者なら誰でも一度は抱く疑問にガチンコで挑む不定期連載企画【謎解きジオン】。第2回は「ガルマ・ザビは坊やだから死んだのか?」です。

「この国には驚くべき事に野党がある」(ダルシア・バハロ)

 ザビ家は宇宙世紀0079年の一年戦争当時、ジオン公国の実権を独占する、一族であると同時に党派だった。その特徴は、この一族の持つ軍事的性格である。当時、家長であるデギン・ソド・ザビ公王を除く全員が軍籍にあり、そのデギン公にしても、第一次革命期にサイド3に駐屯していた地球連邦軍の切り崩し工作を主導し、のちの公国軍の母体となる共和国国防軍を設立した当事者であり、軍事的性格を強く帯びた人物である。ザビ家の権力は行政・司法・立法の三権に及んでいたが、その基盤が軍部にあったということは、ザビ家による統治が軍閥政治と血縁原理との混合体だったことを意味する。しかしダルシア・バハロ首相が「我が国の政治制度は誇っても良い。我が国には選挙があり…議員は全て民意で選択され、公王家と共に政治を行っていく」という言葉通り、ジオン公国は戦時においても民主制としての政体を維持しており、ザビ家あるいはギレン・ザビ総帥による一党独裁と簡単には表現し切れない。

 ザビ家の家長であるデギン公王は当時62歳。自身が権力を掌握した第二次革命以降、急激に政治への意欲を喪い、替わって長男であるギレン・ザビが徐々に実権を拡大していった。しかし全くの傀儡というわけでもなく、重要事項についてはなお形式的にせよ、公王の決裁を必要とした。例えば密閉型コロニー「マハル」の住民を疎開させてコロニーレーザー「ソーラ・レイ」に転用した際の決裁などである。元を辿れば連邦との軍事的対立の路線を敷いたのはデギン公自身であり、ギレン総帥のラディカリズムに強い抵抗感を覚えつつも、それに替り得る指導原理を見出せず、半ば自棄気味に傀儡化していったようにもみえる。その意味で公王という地位自体が法的に有名無実ということではなく、多くはデギン公個人のライフステージの問題と家族間の関係が直接的に権力構造に強く影響した結果と見るべきだろう。

 ギレン・ザビは公国軍大将かつ総帥という地位にあって国家指導全般に渡って極めて強い影響力を持ったために独裁者のイメージが強い。しかし総帥というポジションは字義(日本語だが)から類推すれば、三権の長ではなく軍事面での指導者と解釈できる。恐らくは立憲君主制だったジオン公国軍の形式上の最高司令官は国家元首であるデギン公王であり、ギレン総帥はデギン公の統帥権の総覧者という立場で戦争指導を行なっていたはずだ。その総帥の権力が行政・立法・司法の三権に及んでいた法的根拠は、開戦直前の宇宙世紀0078年10月に施行された国家総動員に基づくものだったと考えられる。地球連邦との開戦が不可避なものとなり、30倍もの国力差がある相手と総力戦を行うとなれば、国家の保てる全てのリソースを戦争遂行の目的に集約していくことが最低限の必須条件となる。そのための法整備が国家総動員令の発布であり、同時に行われた総帥府(通称ペーネミュンデ機関)の設立である。

 総帥府は軍事面では公王の持つ統帥権を代行し、同時に戦時法案を立案して議会に提出する。議会を通過した法案は内閣によって行政化され各関係機関に伝達される仕組みになっていたはずだ。だとすればギレン・ザビは総帥府の監督者として、公国軍全体への指揮権と戦時法案の立案を通じて、法的な手続きに則って委任独裁を実現していたのであって、その点で純粋な暴力に依存した専制や暴政とは異なる。ただし現に進行している総力戦の最中に議会や内閣が総帥府の提出する戦時法案を拒否することが実質的に不可能なことは容易に想像できるので、その意味ではやはりギレン総帥の権力は独裁という評価は免れない。

 またジオン公国軍の特徴として、一般の軍事組織にみられる参謀本部や幕僚会議が存在しないという点が挙げられる。史料上公国軍総司令部という部局はみられるが、一年戦争のどの局面においても主導的な役割を果たした形跡がない。恐らく作戦面での各組織の調整くらいの機能しか有さなかったのではないだろうか。もともと人的資源の乏しい公国軍はスタッフの役割をラインが兼ねる傾向が強く、尉官級の艦長が艦隊司令を兼ねるなどの例はざらにある。参謀本部や幕僚会議などスタッフの機能は総帥府が兼ね、意思決定の多くはギレン総帥と、宇宙攻撃軍司令ドズル・ザビ中将、突撃機動軍司令キシリア・ザビ少将らのラインの長の間で調整されていた。そしてそこでの決定は総帥府を通じて国家統治へと反映されていったと思われる。ギレン総帥直轄の本国防空隊(一般に言う親衛隊)を含め、公国軍はザビ家の兄妹がそれぞれ指揮する3つの軍閥によって構成されていた。その意味では厳密な意味での軍事組織とは言い難く、革命軍あるいは私兵としての性格をまだ色濃く残していたとも言える。つまり戦争指導という契機を媒介して、戦中のジオン公国は3つの軍閥の長の合議体によって運営されていたと見做すことができる。ただし国政との関係は総帥府に集約されており、ギレン・ザビの政治的優位は揺るぎないものでもあった。

 公国軍が制式な軍事組織として3つに分割されたのは総帥府設置と同じく0078年10月。有名な話として宇宙艦隊を主力として主張するドズル中将と、MSを主力として主張するキシリア少将が鋭く対立し、ギレン総帥が仲裁に入ることで宇宙攻撃軍と突撃機動軍に分割されたというエピソードがあるが、ミノフスキー粒子の戦術利用と、それに基づくMSによる戦闘ドクトリンは、国力差のある連邦軍との戦争において勝機を見出す前提条件となっていたはずで、兵器開発と戦術開発は既に0073年ごろから進められている。ゆえにこの開戦目前でMSの有用性が対立の争点になることはあり得ない。ドズル中将とキシリア少将の不仲自体は事実だったので、そこから類推された俗説の類とすべきである。国軍分割の理由は開戦を間近に控えた段階での純軍事的な運用面での事情に求めるべきである。

 MSの実用化以前、コロニー国家であるジオン公国軍は連邦宇宙軍と同じく戦闘艦艇が主力で、国軍分割の時点で7個艦隊を擁しており、それらは以下のように再編成された。

■本国防空隊(親衛隊) ギレン総帥直轄

  第一艦隊 第二艦隊

■宇宙攻撃軍 司令ドズル中将

 ●第一制宙師団(ソロモン方面軍)

  第三艦隊 第四艦隊

 ●第二制宙師団(ア・バオア・クー方面軍)

  第五艦隊 第六艦隊

■突撃機動軍 司令キシリア少将

  第七艦隊(第七師団に改称)

 この編成をみると、宇宙攻撃軍に配備されたのが4個艦隊で最も多い。これはドズル中将が艦艇を重視していたと言うより、作戦領域の違いによるものと考えられる。公国軍の戦略意図では、開戦からブリティッシュ作戦までの一連のシークエンスがブランAであり、連邦軍との武力衝突は宇宙空間を想定していた。連邦軍の宇宙戦力を無力化し、コロニー落としによってジャブローを壊滅させることで戦争の早期集結に持ち込むという即決プランを前提としていたから、ドズル中将麾下の宇宙攻撃軍に求められたのは連邦宇宙軍の艦隊戦力の殲滅である。決戦兵器として期待されたのはMSだが、それを広大な宇宙空間で稼働させるには運用母艦となる艦艇が不可欠であり、艦艇数がそのまま戦場に投入可能なMSを決定する。そもそも公国軍の主力艦艇であるムサイ級軽巡洋艦はMS運用を前提として設計されているのである。そういった用兵面でもドズル中将がMSを艦艇より軽視したという論は成立しない。

 ギレン総帥直轄の本国防空隊はその名の通りサイド3の防衛と、全体の戦略予備と位置付けることができる(実際、末期のア・バオア・クー攻防戦に投入された)として、キシリア少将麾下の突撃機動軍が新たに編成されたのはなぜか。一年戦争初頭の経過をみると、突撃機動軍は宣戦布告と同時に月面都市グラナダを制圧、サイド1・2・4に対するNBC攻撃を行い、ブリティッシュ作戦ではアイランド・イフィツシユ住民の殲滅(いわゆる毒ガス作戦)及びコロニー自体の輸送を任務としている(キリング・J・ダニガン中将麾下の宇宙攻撃軍第二制宙師団がその護衛にあたり、マクファティ・ティアンム中将麾下の連邦宇宙軍第1艦隊と交戦している)。つまり突撃機動軍の作戦領域は宇宙空間ではなく、月面都市やスペースコロニーといった「陸」にあった。恐らく配備された艦隊が一個だったのは戦闘艦艇を用兵上あまり必要とせず、輸送艦揚陸艦などでMSを運用する想定だったのではないだろうか。突撃機動軍が大規模な艦隊戦を行なったのは宇宙攻撃軍と連合艦隊を組んだルウム戦役だけである。比喩的にいえば、宇宙攻撃軍が外洋を主戦場とする「海軍」だったのに対して、突撃機動軍は「陸軍(あるいは旧世紀の米軍における海兵隊)」に近い位置付けだった。配備された第七艦隊が第七師団に改称されたのも、それを反映してのことだったと思われる。ルウム戦役後、ガルマ・ザビは突撃機動軍少佐として機甲連隊を率いてルウムの残敵掃討作戦を担当していたとも言われる(安彦説)。艦隊付きのMSパイロットとしてのシャア・アズナブルが華々しい活躍をみせていた頃、ガルマ・ザビは姉キシリア少将のもとで指揮官としてのキャリアを歩み始めていたのである。

 

vol.4に続く

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