勝つときは汚く 負けるときは美しく

ふと気がつくといつも似たような話をしているので書き留めておきます

ドイツ戦雑感

 結果はみなさんご承知の通りなんで、まずはおめでとうございます。私も日本人なんで感無量です、勿論。

 ハーフタイムで久保くんを下げて冨安を入れて3パックにしたのが大当たりだったので、掌を返したように森保監督礼賛になるんだと思いますが、それまぁちょっと待てよという気はします。

 伏線はあったと思うんですよ。というのは、それまでのアジア勢の試合ですね。イングランドにイランが粉砕された試合、サウジアラビアがアルゼンチンに逆転した試合、オーストラリアがフランスに逆転された試合。

 イランとオーストラリアになくてサウジにあったのは、やはりできるだけラインを高くしてちょっとでも押し返すというロジックだと思います。無理なんですよ、引いて守り切るのは。あいつら相手に。イランとオーストラリアは押し込まれて粘ろうとしたけどフルボッコにされてなす術なく負けた。

 でも押し上げろといっても前が縦パスを閉じてくれないと後ろは下がる。だからロジックが必要で。サウジは少しでも前がプレスかけて後ろ向きにさせたりバックパスさせたり、その度に後ろは物凄く細かいラインコントロールをやって、少しでも押し返すという意識を全員で最後まで貫いた。玉砕覚悟のようにもみえるけど、どっちがリスキーかと冷静に考えたときに、少しでも自陣から遠いところでプレイさせるという選択をしたチームが可能性あると。そういう試合をみせられたあとのドイツ戦。

 正直ね、入り方はあんまりドイツ仕様じゃなかったようにみえるんですよ、森保監督。多分ハイプレスは諦めて4-4-2のミドルプレスで引っ掛けてトランジションで裏返すのが狙いだったんだろうと思うけど、それは日本の平常運転の範囲内。

 ドイツはズーレを右に回してほぼ3バック、左サイドバックラウムをウィングまで上げてムシアラが中に入る3-2-5みたいな形。引っ掛けたときはいい形もあったんですけどね。アメリカ戦の後半とか3パックにプレスがハマらない問題が結局修正されないままドイツ戦迎えてモロに喰らった感じ。

 3バックが自由に球だしするからバイタルにズドンズドン縦パスが入る。ムシアラとかインサイドカットして狭いところで受けて前向けるし、ハヴェルツは最前線から下がってきてパス受けて叩いて裏に走る。ミュラーはあちこちフラフラして局所的に数的有利を作る。ニャブリはドリブルでマークも剥がせちゃう。

 押し込まれてからは引っ掛ける形自体が消えて、跳ね返してはキミッヒに回収されて左右に振られる。ラウムが左でアイソレーションしてるところに長いパス通される。そこに伊藤が後追いで下がらないと最終ラインが枚数足りない。失点はもろにそこ突かれてPK。後ろ4枚で足りないと結局中盤が下がって今度は前が足りなくなる。それでドイツの3バックがフリーになる。

 ドイツが左肩上がりの可変で3バックにするのはよくやる形だったんで、3バックにプレスハマらない問題に対する修正がないまま試合に入ってやられたのは、そこは監督の責任だと思います。2トップでやるにしてももう少し決め事作らないと、なんとなくキミッヒとギュンドアンのところを2トップで閉じに言ってる感じだけど、ドイツはそこ外してCBが自分で前に出れちゃいますからね、誰をフリーにしてどこで誰がプレスにいくか、ハッキリしないのは日本の悪癖。逆にズーレを右に回してハッキリした3バックにしてきたのはドイツの日本対策だったんじゃないかなと思うし、前半では効いていました。優勝候補とそれ以外の差って、CBの技術だなという気がします。昔ならCBはフリーにしても大したことできないから凌げるみたいな感覚があったけど、いまはそこからズバズバ組み立てられちゃう。特にラウムのところのマークがズレるのがハッキリしてからは滅茶苦茶そこ突いてきましたね。

 で、実はそれに対するオプションって日本には辛うじてあったんですよね。それが3バックというか3-4-3で、ラウムのマークが酒井に固定されことで伊藤がドイツのCBにいけるようになりました。3対3でプレスいけるようになったんでドイツがズバズバ縦パス入れるシーンが減ってパックパスも増えて、日本がラインをちょっとづつでも押し上げられるようになりました。

 カナダ戦で辛うじて試したけど、ほとんどやってこなかった3-4-3を後半からやるのは相当勇気がいると思うけど、そこは森保監督の気合いというか、その後に立て続けにアタッカー投入したことも含めて、評価されるべきところ。メンバーの選び方みても3バックのオプションは考えてたんだろうと思います。試す機会が少なかっただけで。

 試合後のインタビューとか読むと、前半我慢してスタメンの選手が限界まで走って交代選手が仕留めるっていうイメージだったらしいから、ゲームプランとしては狙い通りだったのかな。一方のドイツは慌てましたね。選手交代もほとんど意図がなかったし、完全に後手で全くの想定外だったんでしょうね。そりゃそうだ。

 まぁそれもこれも前半で3点くらい取られてたら間に合わなかったわけで、前半を0-1で折り返せたことが本当に決定的でした。なんだかんだPKの1点しか取れなかったわけですからね、ドイツは。ドイツは容赦ないところが恐ろしい一方、傲慢で見下してくるところがあったのに助けられた気がします。前半を最少失点で折り返せたのは、頭のどこかにサウジアラビアとアルゼンチンの試合があったからじゃないかなぁ。ほんと身体張れてましたよね、日本の選手は。

 長友に替わって三笘がウィングバックに入ったけど交代直後は案の定守備するばっかりで意味ねえなと思ったけど、南野が入って鎌田が中盤に落ちてからは見せ場も作って堂安の点に繋がりました。三笘のドリブルが切り札として充分やれるという確信にもなったし。浅野の逆転弾は、あれはスーパーゴールだしスーパートラップだと思います。後ろから来たボールをスピード殺さないように前に落として、そのままボックスに侵入してニア高めを抜いた。ちょっとペルカンプっぽいというか。リスタート早く蹴った板倉の判断も素晴らしい。

 森保監督は最初のゲームプランはよくなかったけど、ハーフタイムとその後の選手交代で大博打を打って勝ったわけだから、ああこういうこともできる監督なんだという印象。その博打でゲームプラン立てて、それをやり切る選手でチームをまとめてきたわけだから、トータルでみれば、ここまでやってきたことの成果というしかない。めっちゃ結果論だけど、結果が全てですからね。名将という感じは正直しないけど。でも3-4-3を隠し玉にして使わなかったなら物凄い策士とは言えるかも。ただCKなんかのセットプレイは大会始まっても全然デザインがないんで、もうちょっとなんとかして欲しい。

 あとね、やっぱり初戦から足攣るくらい走らないと無理なんですよね。3試合あるとか、ベスト8まで5試合とか、そういうのは優勝候補の考えることで、それでもアルゼンチンやドイツみたいに足すくわれることもあるわけだから。

 あとMVPは強いてあげれば権田かな。浅野も堂安も値千金だし、選手個々で言えばみんな頑張ってましたけど。伊藤、鎌田、久保くんとか攻撃の仕事は出来なかったけど、本人の問題というより戦術面のギャップかなと思います。CBと遠藤と田中ももう目一杯やってたし、でもこういう試合ってキーパーが当たらないと絶対勝てない。止められるシュートを止めるだけじゃなくて、止められないシュートを何本か止めてもらわないと無理なんですよね。正直、カナダ戦の権田はハイボール厳しかったんでシュミット・ダニエルの方がいいんじゃないかと思ってましたが、めっちゃ結果論ですが権田が当たってくれないと絶対とれない試合ということでMVP。

 でもまぁほんとに色々理屈こねたところで、勝ったという事実に勝るものはないし、監督も選手もスタッフもみんな凄いですね。ドーハの悲劇から考えたら、まさに隔世の感。ほんとにおめでとうございます。

 ところでムシアラ滅茶苦茶上手いですね。この試合の後スペインとコスタリカの試合も観ましたが、ペドリとガビも滅茶苦茶上手い。このワールドカップ、若手の選手が凄いですね。イングランドのベリンガムとかもパない。往年のヴィエラみたいな感じでしたね。サイズが大きくて動きもダイナミック。

 コスタリカはスペイン相手に引いて7失点。日本との違いは前半で勝負がついちゃったこと。とにかく所謂優勝候補はみんなCBが上手い。前からハメにいく形から逆算して考えないと、絶対にそこからやられますね。相手の並びとのミスマッチを試合中に修正するというところが出来ないと相当苦しい。とにかくビルドアップを少しでも邪魔する、それをやらないと一方的にやられるというのが、ここまでのワールドカップの教訓じゃないかなと。