勝つときは汚く 負けるときは美しく

ふと気がつくといつも似たような話をしているので書き留めておきます

ガルマ・ザビは坊やだから死んだのか?vol.4

 宇宙世紀に生きる者なら誰でも一度は抱く疑問にガチンコで挑む不定期連載企画【謎解きジオン】。第2回は「ガルマ・ザビは坊やだから死んだのか?」です。

「鷲は舞い降りる!これはスペースノイドにとって大きな飛翔なのである」(キシリア・ザビ)

 地球方面軍司令部が設置されたのは宇宙世紀0079年2月1日、したがってガルマ・ザビ大佐の司令就任も同日と考えられる。その前日である1月31日には南極の国際共同観測都市スコット・シティでジオン公国と地球連邦とあいだの停戦条約交渉が行われたが、周知の如く連邦宇宙軍総司令ヨハン・イブラヒム・レビル中将の「ジオンに兵なし」演説により、交渉は戦時条約(いわゆる南極条約)の締結に留まり、戦争は継続されることとなった。翌日の地球方面軍司令部の設置はこの状況に対応したものであり、さらに1ヶ月後の3月1日には第一次地球降下作戦が発令、公国軍による地球侵攻が開始されるわけだが、当然これほど大規模の作戦を1ヶ月という期間で準備できるはずもなく、地球侵攻は当初からプランBとして用意されていた考えられてきた。

 ジオン公国と地球連邦の国力差を考えたときに公国軍首脳がコロニー落としによる戦争の早期終結を意図していたことは疑いないが、ブリティッシュ作戦が失敗した場合、あるいは成功してもなお連邦が継戦意志を喪わない場合に備えたプランBは必然的に公国軍による地球侵攻がオプションとなる。長期戦になれば、圧倒的な人的・物的リソースと工業生産力を有する地球連邦は必ず戦力を再建して緒戦の劣勢を挽回しにくるはずで、そうなったら国力において劣り、すでに相当の損害を被っている公国には勝ち目がない。したがってプランBはまず地球連邦の資源やインフラ、ロジスティックなどに損耗を強いて自らがそれを確保する戦略が選ばれたはずであり、そのような意図は確かに三次の地球降下作戦の作戦目標にも看取できる。しかしその後の戦局の推移をみると、公国軍首脳部が一貫性をもってプランBを準備していたのか疑問も残る。

 まず第一に挙げられる疑問は、地球に侵攻した公国軍の各方面軍を統合する上級司令部の存在が見当たらないことである。ガルマ大佐の地球方面軍司令部がそれに該当しそうだが、地球に展開した各方面軍には将官級の指揮官も存在し、階級は大佐に過ぎず経験実績でも劣る若年のガルマ・ザビがこれらを統率していたとは、いくら公国軍が柔軟な組織でも考え難い。またガルマ大佐の指揮権の範囲は実質的に北米地域に限定されており、地球方面軍司令部が他の地域の部隊を指揮していた形跡もない。そもそも地球に展開した公国軍の呼称も曖昧で、地球方面軍以外にも地球攻撃軍、地球侵攻軍など複数の呼称が史料上存在している。裏を返せば、そもそも地球に侵攻した公国軍は統合された指揮系統を持たない雑多な部隊の寄せ集めだから全体の正式な呼称も存在しなかったのではないかという印象がある。ここでは便宜上、重力戦線に投入された公国軍の全体を地球方面軍と区別するために地球侵攻軍と呼称する。

 考えてみれば、コロニー国家であるジオン公国にもとから地球侵攻軍のような組織が存在するはずもなく、重力戦線が具体的に計画された段階で各軍から抽出された戦力を再編成した急拵えの部隊のはずである。そしてその作戦全体の指揮を任されていたのはガルマ大佐ではなく、その上官にあたる突撃機動軍司令キシリア・ザビ少将だった。第一次地球降下作戦の発令に際して、キシリア少将は以下のように訓令を発している。

鷲は舞い降りる!これはスペースノイドにとって大きな飛翔なのである。

ギレン総帥は決断されたのだ。ジオン独立戦争開戦劈頭…我々は正義の剣を地球へ打ち込んだ。

然るに、地球連邦の者どもは未だ重力に呪縛され惰眠を貪っている!

総帥はこのキシリアに命じられた…もはや我が腕により正義の鉄槌を下すため重力戦線を形成すると!

真の自由のために、我々は重力の坩堝へ舞い降り地球の自由を約するものであると!

我が第1地上機動師団は、既にして空挺堡を欧州方面に構築し、西方を平らげるべく進軍しつつあり!

 しかしそのキシリア少将自身も地球に常駐することはなく、突撃機動軍司令部のある月面都市グラナダに留まった。したがって実際のところ地球侵攻軍をキシリア少将が直接指揮していたわけではない。地上におけるキシリア少将の影響力は限定的で、資源採掘のためにオデッサ鉱山基地に駐留したマ・クベ大佐麾下の第七師団(の一部)と、諜報やシーレーン攻撃に従事した戦略海洋機動部隊(いわゆる潜水艦隊)だけである。そしてこれらキシリア少将の影響力の強い勢力は地球に展開した各方面軍と積極的に連携することがなかった。連邦軍によるオデッサ作戦で、欧州方面軍(第一地上機動師団基幹)とマ・クベ大佐麾下のオデッサ方面軍が連携することなく各個撃破されたことに象徴されるように、これらの部隊が地球侵攻という作戦目的よりも、キシリア少将の利害に基づいて行動することが多かったからである。

 以前から地上での公国軍相互の連携の悪さは敗因のひとつとして挙げられており、その要因としてこのような公国軍の軍閥的体質とともに、地球方面軍司令ガルマ大佐の戦死が挙げられてきた。しかしガルマ大佐の地球方面軍司令部が地球に展開した公国軍の統合司令部としての位置づけでないとすれば、そもそも各方面軍相互の連携自体があまり考慮されていなかったのではないかと思えてくる。これがプランBが準備不足だったと考える理由のひとつである。

 もうひとつの疑問は、地球に展開した公国軍のリソースが戦争に勝利するためには少な過ぎる点である。史料上、地球方面軍は突撃機動軍第一機動歩兵師団(いわゆるMS師団)を基幹として航空軍などの諸兵科を編号して編成されたとあるが、地球に侵攻した部隊の基幹戦力が一個師団では少な過ぎる。実際に三次の降下作戦で編成された方面軍は5つ、5個地上機動師団に及ぶ。したがって他の方面軍はまた別の部隊から転用されたはずであり、地球方面軍という呼称が地球に侵攻した部隊全体を指すのではなく、そのうちのひとつの方面軍の呼称だったことが窺える。

 もともと公国軍には地球侵攻軍などは存在しなかったわけだから、その編成は3軍のなかから部隊を適宜抽出して行われたはずである。特に宇宙攻撃軍と本国防空隊は、ルウム戦役で連邦宇宙軍の艦隊戦力に壊滅的損害を与えて以降、戦力的なプライオリティは低下していたはずで、地球侵攻に際してはこの方面から多くの戦力が抽出されたと推定できる。公国軍の軍閥的体質を考えれば、突撃機動軍以外の部隊が多く編入されたことも、地球侵攻軍の指揮系統がキシリア少将に統合されなかった一因かもしれない。

 史料上確認できる情報から、地球に展開した公国軍の編成を再現すると、凡そ以下の通りとなる。史料の記載がかなり錯綜しているので類推をかなり含むことをお断りしておく。

■欧州方面軍 司令ユーリ・ケラーネ少将

 ●第一地上機動師団基幹

■戦略資源採掘部隊(オデッサ方面軍) 司令マ・クベ大佐

 ●突撃機動軍第七師団基幹

■地球方面軍 司令ガルマ・ザビ大佐

 ●第二地上機動師団基幹

■北米方面軍 司令ガルマ・ザビ大佐(兼務)

 ●第三地上機動師団基幹

■アジア・オセアニア方面軍 司令ウォルター・カーティス大佐

 ●第四地上機動師団基幹

アプサラス開発部隊 司令ギニアス・サハリン技術少将

■アフリカ方面軍 司令ノイエン・ビッター大佐

 ●第五地上機動師団基幹

■戦略海洋機動部隊(潜水艦隊)

■海兵降下旅団(外人部隊) 司令アサクラ大佐

 ●突撃機動軍海兵上陸部隊基幹

 3月1日の第一次降下作戦では、第一地上機動師団を基幹とする欧州方面軍が中央アジアに降下し、宇宙へのロジスティックの動脈となるバイコヌール宇宙基地を制圧、ここを橋頭堡として鉱物資源採採掘拠点となるオデッサ方面と石油資源採掘拠点となる中東方面に展開した。この作戦目標からも、公国軍の狙いは資源の確保(連邦側からみれば損耗)にあったことが明らかである。オデッサを確保したのちの3月4日にはマ・クベ大佐麾下の戦略資源採掘部隊が降下して本国への資源供給を開始し、欧州方面軍は前衛としてベルファスト方面の連邦軍と対峙する戦線を形成した。

 続く3月11日には第二次地球降下作戦が発令され、同日に北米西海岸の連邦軍基地キャリフォルニアベースと東海岸の都市ニューヤーク近郊に地球方面軍(第二地上機動師団基幹)と北米方面軍(第三地上機動師団基幹)が降下、これらを制圧した。キャリフォルニアベースは、旧世紀の米国カリフォルニア州全域に及ぶ巨大な軍事複合施設であり、連邦軍の地上最大の兵器生産拠点でもあった。またニューヤークは北米地域最大の経済拠点であり、公国軍による制圧後は地球方面軍司令部が置かれた。第一次降下作戦の作戦目標が戦略資源に置かれていたのに対して、第二次降下作戦の主眼は地上での兵器生産体制の構築に置かれていたことがわかる。

 3月18日の第三次地球降下作戦ではインド亜大陸と東南アジア、オーストラリア大陸などの資源確保を目標として、第四地上機動師団を基幹とするアジア・オセアニア方面軍が降下した。この方面はコロニー落としによる被害を最も甚大に被り、比較的連邦軍の抵抗力も弱い正面でもあり、アジア方面に展開した部隊は中央アジアの資源採掘拠点を側面から防衛する役割も担った。

 三次の降下作戦によって連邦軍の抵抗力が低下し、地球〜宇宙の往還路が確保されたことによって敵地への降下強襲という手段をとらずに兵力の供給が可能となり、4月4日には第五地上機動師団を基幹とするアフリカ方面軍と海兵降下旅団(いわゆる外人部隊)を主力とする補充部隊が降下、地中海南岸の北アフリカ大陸方面の確保と欧州・中東方面への側面支援体制を整えた。

 このように公国軍による降下作戦は地球の主要な地域全体に及ぶ広範囲なもので、各方面軍の作戦目標は各地の資源や生産手段の確保(連邦側からみれば損耗)だったことがわかる。これは戦争の長期化を見据えれば戦争継続のための妥当な判断かもしれないが、どのように戦争に勝つかという点においては、どこに意図があったのか終戦まで判然としなかった。

 これまでみてきたように地球侵攻軍の主力を成していたのは5個の地上機動師団である。各方面軍は地上機動師団のMS大隊を中核として必要に応じて航空軍や砲兵、歩兵などを編号して運用された。MS大隊の定数は4個中隊42機とされているので、1個師団あたりの定数は210機。ただし稼働状態にあるのは実質4個大隊だったとも言われている。オデッサ方面軍などの兵力は詳らかでないものの、重力戦線に投入された各方面軍のMS定数は全体として800機から1,000機程度だったと推測される。

 この数字が多いのか少ないのかだが、例えば宇宙での戦闘では、一年戦争で最大の艦隊戦となったルウム戦役に公国軍が投入したMS数は約1,000機、大戦最後の決戦となったア・バオア・クー戦役に投入されたMSは3,000機を超える。対して重力戦線で最大の規模となったオデッサ作戦で公国軍が展開できた戦力は欧州方面軍の第一地上機動師団1個であり、それにマ・クベ大佐のオデッサ方面軍とアフリカ方面軍など各地からの支援が加わっても、実戦投入されたMS数の推定は200機から300機を超えない程度だったと推測される。またガルマ大佐戦死後にキャリフォルニアベースの戦力を基幹にマッドアングラー隊などを加えて実行されたジャブロー降下作戦では、地球連邦軍の本拠地への強襲作戦にも関わらず、投入できたMS数は52機に過ぎなかった。つまり、地球全体に展開されたMSが1,000機前後あったとしても、重力戦線で公国軍がひとつの戦場に集約できる戦力は多くても200〜300機、多くの場合は数機から数十機程度だったということになる。それだけ地球は広大だということでもあり、またロジスティックなどの重力下における部隊運用について公国軍首脳の意識が低かったということをも示している。これがプランBを準備不足だったと考えるもうひとつの理由である。地球侵攻は戦争の長期化に伴って、それに耐え得る状況を生み出す為の対処療法的措置であって、戦争に勝つためのシナリオではなかった。

 

vol.5に続く

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