勝つときは汚く 負けるときは美しく

ふと気がつくといつも似たような話をしているので書き留めておきます

なにが足りなかったんでしょうね

 清水の監督だったゼムノビッチさんという人がが「日本の2対0は危ない」と言ってたそうで、欧州だと2点差って余程のことがないとひっくり返らないから試合を閉じにかかるんだけど、日本の選手は1点返されると浮き足立ってガタガタっと崩れるんで結構ひっくり返ると、そういう意味らしい。

 

 今回の試合がじゃあそういう試合だったかというと、そこまで浮き足立った印象はあまりなく、3点目を取りにいく采配が裏目ったという批判も、そりゃ負ければ当然出るわけだけど、そこはもう監督の決めの問題でしかなく、ベルギー相手に残り40分守り切る自信があるかと言われると、どっちかに張るしかなかった。どちらかに張る判断を早く出来るのが西野さんの大いなる美徳で、決めない時間が長過ぎる方が傷は大きかっただろうと。その意味では遅過ぎではなかったんじゃないかなと、この辺はもう観る人による。

 

 大迫なんかは2-0のあともっとはっきり守るべきだったみたいな趣旨のコメントもしてたけど、ベルギーはフェライニ入れて高さ勝負見え見えだったんで、ゴール前にドン引きしてルカクフェライニのターゲットにボンボン放り込まれて、アザールとデ・ブライネにミドルシュートをガンガン蹴り込まれて失点しないイメージはない。ある程度押し返さないと守り切れる残り時間ではなかった。

 どう守るかの問題なんだろうけど、カウンター狙いの武藤より本田を入れたのは少しでも前で少しでも長くキープして欲しかったんだろうし、柴崎下げたのは体格的に守備に限界があるのと、やっぱり必殺の縦パスはカットされるとまたすぐ逆襲喰らうんでまず守備、そして確実に繋ぐというタスクで山口蛍、多分そういう指示だったんじゃないかなと。

 

 始めから振り返るとベルギーは3-4-3、GLよりもメルテンスがサイドに張らないんでほぼ3-4-2-1、何れにしてもアザールルカク、デブルイネ、カラスコメルテンスの5人をみんな出したい、ベルギーは攻撃も守備も個人技ありきなんで、もういい選手を出来るだけ沢山送り出すスターシステムっていう考え方なんだろうなと。

 

 対する日本は基本的な並びはあんまり変わらないけど守り方はかなり考えてきてて、ベルギーの最終ラインがボールをもつと

 

①大迫と香川の2人はセンターバックへのマークを捨てて中盤のラインに入ってデブルイネとヴィツェルをマークして乾、原口と横並びのラインをつくってベルギーのDFラインから中盤に繋がせない。

ルカクは吉田と昌子の2人でマークする。

③長谷部と柴崎はその前でアザールメルテンス

④乾と原田は対面のウィングバック、

ルカクのところは2対1にしつつ、他は1対1で掴まえておいて、ボールサイドのサイドバックが連携してアタッキングサードでは2対1の関係でチャレンジ&カバーを徹底する。

 

 もとからチカラ比べではなくて知恵比べというか知恵対チカラの試合なので、少なくとも対策では上回ってたし、前半はかなり守れてた。みようによっては4-2-4-0みたいな形だけど最終ラインは頑張ってかなり高めにしてお互いの距離感縮めてたので、かなり狭いスペースに押し込んで2対1はつくれてた。というかアザールとかルカクは1人じゃ無理。

 前線の選手を守備組織に組み込むやり方はアトレティコシメオネに近い。西野さんは試合ごとに結構いろんな戦術トレンドを取り入れて、山本さんも折に触れてスカウティングスタッフを褒めてたけど、物凄く相手を研究して対策を立ててゲームプランをたてて、選手もかなりそれに応えられていた。この辺は本当にちゃんと総括した方がいい。西野さん自身そういう監督だし、実はハリルのやり方でもあった。ハリルはそれで「スタイルがない」と批判されてたけど、現実にはどことやってもいつも勝負になるチームなんていまの日本代表に望まないわけだから、スカウティングとゲームプラン、それを精確に実行できる選手、それが日本らしさなんじゃないのと。

 

 ベルギーは本来ウィングのカラスコを無理矢理ウィングバックで起用してるので左サイドの裏は空く。これはもうずっとそうなので、ここはも穴を空けといても攻め切るという考え方なんだと思う。

 GLにもましてデブルイネが守備をしないのでヴィツェルが走り回ってカバーリングしてたが穴は絶対空く。ここが完全に狙い目で、日本は左は乾、香川、長友の細かいパスワークで形つくれてたけど、右は原口や酒井がカラスコを振り切って長い距離走ってそこに柴崎がバスンとロングパスを通す。長谷部や吉田もたまに狙ってたけど、やっぱり柴崎でないと通らなかったね。原口の1点目は完全にこの形で狙い通りだったと思う。左のパス交換で人を寄せておいて空いた右に走りこんでサイドチェンジで一気にゴールまでいくというのは試合前のプランだったんだろうなと。

 

 2点先行されたベルギーはなりふり構っていられないので、メルテンスカラスコを諦めてフェライニとシャドリ投入、ある程度パワープレイでくる。

 ベルギーも流石に個人技だけのチームではないというか、並びも弄ってきて、デブルイネを1列上げて純然たるトップ下に入れてアザールを前がかりにして3-4-1-2の1に近い形にして、フェライニヴィツェルと並んで中盤センターのゾーンを守りつつ(3-4-1-2の4の真ん中)、攻撃時には一気にルカクの近くまで行ってクロスのターゲットになる。左はシャドリ外に開いてクロッサーになりつつ、守備時にはヴィツェルの脇につけて、3バックは左にスライドして右にムニエが落ちてきて4バックを形成して、4-3-1-2のような形になる。これで香川や乾がパスワークするスペースと逆サイドをある程度消せた。

 日本もブロック守備なんで入ってきた選手を捉まえようとするんだけど攻撃のときと守備のときでベルギーがポジションチェンジしながら入ってからので、前半のような2対1がつくれない。試合中に負けてる状況でパッとやり方変えられるのは、やっぱりベルギーの選手の個人戦術の高さ。個々にやってることは微妙な変化なんだけど、組織力があるっていうのは結局ワンプレーワンプレーのディテールの積み重ねなんですよね。日本は用意したプラン完遂するという点では今大会かなりいい線いってたけど、やはりこの辺で個人の差が出ちゃうかなと。優勝候補との違いというべきか。

 ベルギーはブラジル戦ではこの後半の形をスタメンにしてきたので、カラスコメルテンスを併用したスターシステムを諦めたのか、格下相手用のプランだったのかどうか。

 

 ベルギーの1点目はフェライニ入れてパワープレイでクロス放り込んだところで、川島が反応して前に出たんだけど、選手が密集して競ってるんで薄くしか触れず、パンチングに切り替えてペナルティエリア内にはたき落とす形になる。乾が戻りながらクリアしたけど逆サイドに振るのが精一杯でベルギーの選手に頭で折り返されて、この時点でもう川島は右往左往してるだけなんでゴールガラ空きで、ループシュートみたいになって失点。

 出るんだったらペナルティエリアの外まで弾かなきゃ駄目だし、ベルギーがターゲット増やして密集してるんだから、放り込まれたときに周囲の状況がみえてないで軽率にゴール空けた川島の判断ミス。この手の周りがみえてな判断ミスが今大会の川島には多い。セネガル戦でパンチングしたのがそのままマネに当たって入ったのとかもそうだし、メンタルの問題なのか試合勘の問題なのか。

 2失点目はセットプレイ崩れでペナルティエリア左側でアザールにボールがこぼれて大迫がマーク、それまでアザールには2人でいくっていうのを一生懸命やってたのに、なかのマークをみててサポートにいけず大迫が1対1のまま対応して、右足のシュートが1番怖いからそっちを切って、切り返されて左足でクロス上げられてフェライニの頭でゴール。アザールは狭いスペースでも左足で正確なクロスを上げる技術があるから結局1対1で防ぐのは無理っていう、百も承知のパターンで、なかのマーク捨ててでも誰かサポートにいって左も切れればっいう、もうそういう瞬間のディテールの差。

 

 試合前に準備したプランは完遂できたし、このレベルにならともうスーパープレイの1つや2つでないと勝てないけど、川島には2つビッグセーブがあったし、乾のスーパーゴールもあった。

 3点目を取りにいく選手交代、逆転カウンター喰らった本田のコーナーキックも勝ってるならともかく、ロスタイムで2対2、延長になって勝てる見込み、守り切れる見込み、考えてみて狙いにいっちゃったのが判断ミスとまで言い切れるか。

 

 確かに負けた理由を探せばいくらでもあるけど、この試合に限って言えばベルギーが負けるべき理由だって一杯あったし日本が勝つべき理由だってあった。アップセットを演じるだけの準備は出来てたし、足りないところだって、どんな試合、どんなチームでもあってもこれくらいはあって、それでも勝つチームはいくらでもいる。なのになぜか日本はディテールのちょっとしたところの差が全部敗戦に直結してしまう、それが何故なのか。西野さんの「なにが足りないんでしょうね」というのは、本当にそれくらいの手応えがあったんだと思う。

 

 スカウティングとゲームプラン、その精確な実行。もともと技術委員だった西野さんとハリルのあいだには結構連続性があったし、初めて日本の勝ち筋みたいなものが見えかけた大会だったんじゃないかなと思う。それだけにアップセットを演じて欲しかったし、その条件もあったと思う。なんとかリセットされちゃって美談に埋もれてしまわないで欲しいなと思います。