勝つときは汚く 負けるときは美しく

ふと気がつくといつも似たような話をしているので書き留めておきます

ガルマ・ザビは坊やだから死んだのか?vol.1

 宇宙世紀に生きる者なら誰でも一度は抱く疑問にガチンコで挑む不定期連載企画【謎解きジオン】。第2回は「ガルマ・ザビは坊やだから死んだのか?」です。

 

「坊やだからさ」(シャア・アズナブル

 ガルマ・ザビ大佐(階級は当時。以下同)の戦死は宇宙世紀0079年10月4日、享年は20歳。その国葬の中継映像を観ていたシャア・アズナブル少佐の科白が印象深いエピソードになっていくわけだが、実際のところ坊やだから死んだとはどういうことか、あるいはガルマ・ザビは坊やだったのか、そもそも坊やとはなにを指すのか。

 戦史の視点からみれば、宇宙世紀0079年10月は公国軍による三次の地球降下作戦が実行されてから半年余りが経過し、重力戦線が膠着状態に陥っていた時期にあたる。ガルマ大佐の戦死が約1ヶ月後の連邦軍による大反攻作戦「オデッサ・デイ」へと繋がっていくという点で、一年戦争におけるミリタリー・バランスに大きな影響を与えた事件といえる。

 当時のガルマ大佐は地球方面軍司令として2個地上機動師団を指揮下に置き、地球連邦の政治的中枢である北米大陸の占領軍政と軍事的中枢である南米ジャブローの監視、さらには地上最大の兵器生産拠点キャリフォルニア・ベースの管理という重責を担っていた。

 艦載MS3機の単艦編成、しかも非正規部隊である木馬との局地的な交戦で方面軍司令級の指揮官が戦死するということ自体が多分に偶発的な要素を含んでいるわけだが、そこから国葬演説を経てオデッサ作戦、そして地球連邦軍による大規模反抗へと連鎖的に展開した戦局は、ある意味ジオン公国におけるガルマ・ザビの存在の大きさを逆説的に物語っている。その意味で、坊や説をガルマ大佐個人の人格的な資質だけに還元することなく、多角的な補助線を引くことによって、当時のジオン公国の置かれていた状況に新たな視点を加えることができるかもしれない。

「親の七光りで将軍だ元帥だなどと国民に笑われたくはありません」(ガルマ・ザビ

 坊や説の前提を成す議論としてガルマ・ザビの政治的位置について、いわゆる親の七光り問題がある。

 若干20歳、しかも大佐という階級で地球方面軍司令というガルマ・ザビの特殊な立場は、当然のことながら公国を指導するザビ家の一員であるという事実を抜きにして考えることはできない。公国軍は連邦軍に比較すると階級と職掌の関係が柔軟で、例えばオーストラリア方面軍司令ウォルター・カーティスなども階級は大佐だった。しかしオーストラリア方面軍はアジア・オセアニア方面という広大な地域を担当した第4地上機動師団のオーストラリア駐屯軍に過ぎず、規模的には旅団程度だったと考えられるのに対して、地球方面軍司令ガルマ大佐の戦力は5個配備された地上機動師団のうち第2・第3を含む地上戦力の4割に及んでおり、地上において掌握しているリソースは将官クラスの指揮官を凌駕していた。

 実際、ガルマ大佐自身が父であるデギン・ソド・ザビ公王に宛てた私信のなかで「親の七光りで将軍だ元帥だなどと国民に笑われたくはありません」と心情を吐露しており、大佐でありながら将官級の指揮権を与えられていた自らの地位をザビ家の一員としての特権的待遇ととられかねないと強く意識していたことがわかる。

 しかしザビ家の係累は実質的国家指導者である長兄ギレン・ザビ総帥が35歳、次兄である宇宙攻撃軍司令ドズル・ザビ中将が28歳、姉の突撃機動軍司令キシリア・ザビ少将に至っては24歳であり、ガルマ大佐の20歳とそれほど隔たっているわけではないにも関わらず、各々要職を占めている。そもそも孤立したコロニー国家であるジオン公国は、その厳しい環境的・政治的条件ゆえに極めて能力主義的な社会であって、その意味で年齢・性別などによるディスアドバンテージの意識は希薄である。ガルマ大佐を坊やと評したシャア・アズナブルも同じ20歳で国民的英雄となったのである。若くして活躍することはスペースノイド社会では歓迎されるべきことであって、年齢の若さをもって親の七光りということは妥当ではない。

 そもそも宇宙世紀0069年の公王制施行自体がザビ家という血縁集団への権力の集中による国家指導の安定した一元化を目指したものであって、それは一年戦争に至るまで国民の支持をある程度受けてきている体制なのだから、ザビ家の一員が、それを根拠に要職を占めること自体を指して親の七光りということもできない。したがって親の七光り問題は年齢や出自に単純に還元できるものではない。

「我々はガルマ・ザビを失った時に、未来を失したのだよ」(ダルシア・バハロ)

 ザビ家内部におけるガルマ大佐の位置について、これまで余り問題にされてこなかった点がある。それはガルマ・ザビデギン公王の後継者と(暗黙理に)思われていたらしいことである。

 例えば戦時下にあって国葬が行われたのはガルマ大佐だけであって、例えば(戦況は違うが)同じザビ家の一員であるはずのドズル中将が戦死したときとは明らかに待遇が異なる。またそのドズル中将自身もガルマ戦死の報に接して「あやつこそ俺さえも使いこなしてくれる将軍になるものと楽しみにしておったものを」と嘆き、将来的にガルマ大佐が自分より上位者となるはずだったことを暗に示唆している。

 また公国首相ダルシア・バハロは連邦との和平交渉に踏み切った際に「我々はガルマ・ザビを失った時に、未来を失したのだよ」「それがどんな未来だったのかもはや知る術はないが…あの若者が死んだ時、我々は確かに未来も失くしたのだ」と副首相オレグに洩らしている。

 このような公国上層部の意識は国葬でみられたガルマ大佐の国民的人気をも反映しており、全体としては半ば公然とデギン公王の後継者はガルマ・ザビというコンセンサスが国内に共有されていたと見做してよいと思われる。

 しかし客観的にみればこれは奇妙なことでもある。当時の公国の実質的指導者は紛れもなくギレン・ザビ総帥であって、その意味では国家元首であるデギン公王の後継者はギレン総帥で既成事実化されていたはずだ。ガルマはザビ家の第4子に過ぎず、2人の兄と姉が各々要職にある。ギレン・ザビには実子がいなかったらしいが、それだけでガルマ・ザビの後継が必然とはならないだろう。現に戦後ザビ家の系譜はドズル中将の実子であるミネバ・ラオ・ザビ公女に受け継がれているのである。つまり、ガルマ・ザビの位置の特殊性というのは、もう少しザビ家内部の事情に踏み込んで考えてみる必要がある。

「ザビ家のみがこれからの歴史に責任を負うのだ」(デギン・ソド・ザビ

 デギン・ソド・ザビには複数の妻がおり、ザビ家の兄妹の家族関係については諸説あって定説をみないが、ガルマ・ザビの生母がナルス・ザビであるという点については史料上一致している。ナルスはガルマを産んだのち間もなく死亡しており、ガルマは母親を知らずに育った。

 諸説入り乱れるなかでは、ギレン・ザビの生母も早くに亡くなっており、それが彼の人格形成に影響しているという説、またドズルは妾腹の生まれで、それ故に兄妹間でもやや立場が弱く、デギン公の態度も冷淡だったという説、あるいはキシリアの母親をナルスとする説、ドズルとサスロの母親をナルスとする説もあり、生母ナルスの面影を濃く残すガルマをドズルが溺愛したなど、さまざまな説があり結論をみない。

 ガルマ以外の兄妹の生母については詳らかではないが、それぞれ母親が違うとする説もあり、だとすると父親を同じくしながらも別々の母親のもとに生まれたという家族内の関係は兄妹間の立場の違いに影響を与えた可能性はある。

 ナルス・ザビとデギン公の閨閥については分からないことが多く断定は難しいが、ここではガルマ・ザビだけがナルスの子、ギレン・ザビキシリア・ザビは前妻の子、ドズル・ザビと夭折したサスロ・ザビは側室の子という仮説を提案したい。

 根拠としては、ガルマ・ザビは最後の正妻ナルス・ザビを唯一生母としている点において他の兄弟と異なる地位にあったと考えるからである。キシリアを前妻の子とすると少なくとも宇宙世紀55年ごろまでは前妻は存命だった計算になり、死亡時のギレンの年齢は11歳前後となる。恐らく、生母を同じくするギレンとキシリアは、前妻の子であるという点において、ナルスとの再婚とガルマの誕生によって複雑な立場に立たされたのではないだろうか。本来であれば年齢的にも実績的にもデギン公王の後継者たり得る資質と資格を持ちながら、ガルマとナルスを溺愛するデギンに対する保身として、ギレンもキシリアもその野心と自負を抑制せざる得なかったと思われる。サスロとドズルを同母と推定したのは風貌が似ているからである。

 それでも、ガルマ誕生前後のザビ家はまだ有力ではあるけどもダイクン家の支援者の一つでしかなく、家長の地位自体が国家権力と直接結びつく状況ではなかった。問題は公王制の施行によって、ザビ家の家長が公王という国家元首の地位と直結することによって深刻になった。ザビ家という家族内での序列がそのまま国家権力内の序列と一致してしまうからである。ザビ家がラル家との政争に勝利して権力を掌握したときに、デギン・ソド・ザビが洩らした「ザビ家のみがこれからの歴史に責任を負うのだ」という言葉が、ガルマ・ザビに末弟という立場以上の重みをもってのしかかってきたのではないだろうか。

 

vol.2へ続く

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2022年11月12日 @SHIBUYA TAKE OFF7

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