「文庫版 死ねばいいのに(京極 夏彦)」
久しぶりに京極夏彦を読んだが、相変わらず糞みたいな奴の心象風景を描かせたら当代一の名手。
「中世武士の勤務評定(松本一夫)」
織豊政権以前には武士の恩給は原則的に土地なわけだが(いわゆる御恩と奉公)、土地を給付するといっても一元的な権利管理機構があるわけじゃなし(幕府はあくまで裁定ないし調停機関)、どうしてたのかな思ってたら、案の定グダグダだった(だから調停が必要なんだが)。
「世田谷一家殺人事件 15年目の新事実(一橋文哉)」
先日、事件後19年を迎えて現場となった自宅の解体が打診されたそうだが、著者が執拗な取材でかなり有力な反証を立てているにも関わらず、犯人像について未だに初動の躓きを引きずっていらしい報道で、なんだかなあと。
「古代豪族と武士の誕生(森公章)」
絶賛活況を呈している武士論の分野だが、在地領主説、軍事貴族説、芸能説のいずれも都を起源とした源平藤の趨勢が中心になっていて、古代から在地に存在した国造–郡司の系統はあまり顧みられることが少ないが、断片的ながら在地の郡司層が都から赴任した軍事家族と女系で結合して武士化していった過程が検証されていて、なかなか有意義な論考。
「論理的思考のコアスキル(波頭 亮)」
こういう本あんまり読まないんだが、これは論理学などを援用しないがらも、あくまで実践的なスキルとして扱っているところに好感もてる。
「ハロー・ワールド(藤井 太洋)」
確かわりと初期のKindle作家でもあったと思うが、これは仮想通貨をテロリズムと重ねた作品で、元エンジニアの作家ということでテクノロジーのトレンドを掴むのが上手だなと。
「レギオニス 勝家の決断(仁木 英之)」
柴田権六勝家を主役として並いる信長麾下の武将が高度成長期のサラリーマンのようにこき使われた末に秀吉が一人勝ちする様を描く一大叙事詩、ついに完結。
「激しき雪(山平重樹)」
野村秋介が朝日新聞で自決した事件は物凄く鮮明に記憶に残っているが、あんまりちゃんと事績を追ったことがなかったなと思い読んでみた。強烈な美意識だけで生きたひと。
「今川氏親と伊勢宗瑞(黒田 基樹)」
2019年は今川義元公生誕500年ということで、いつになく今川氏関連の書籍がでて、イメージキャラクターの今川さんまでできたが、これは義元公の親父さん氏親公とその叔父の伊勢宗瑞a.k.a.北条早雲の評伝。
氏親は実は先進的な大名だったし、宗瑞も後北条氏というメジャー大名の家祖のわりに確かな事績がまとまってきたのはわりと最近だったりする。
戦国大名の元祖のような位置づけの宗瑞だが、事績を辿ると甥の氏親との共同作業のような形で幕府から自律した政体をそれぞれつくっていったことがわかる。
「麻原彰晃の誕生(高山 文彦)」
サリン事件と宮崎勤事件、酒鬼薔薇聖斗事件があったあたりの95〜97年ころが日本の断末魔のようだったなと。
『少年A』と同様、事件自体よりも犯人の心象風景を丹念に追う高山の持ち味が出ている。