勝つときは汚く 負けるときは美しく

ふと気がつくといつも似たような話をしているので書き留めておきます

メッシがアルゼンチン代表というのが無理ゲーなんじゃないかと

クロアチア 3-0 アルゼンチン

 

 クロアチアの出来が頗るよい。毎度曲者揃いみたいな面子を揃えてくるのだけど、気がつけば16強入りはユーゴスラヴィア解体後初出場で3位に入った98年フランス大会以来20年ぶり。ちょっと意外。

 日本とも対戦したが、ボバン、シュケルプロシネツキ、ヤルニ、アサノビッチ、ビリッチなんかの個性の強い面子がそろった実力派チームだった。旧ユーゴ系のチームは選手一人ひとりの主張が強いというか、普段西欧のチームで傭兵をやってる腕自慢の連中が集まったチームなので、まず個人という意識が強いが、クロアチアは特にそういう色が強く出たチームだった。

 

 今回のチームはレアルの10番モドリッチバルサラキティッチが2枚看板で、初戦のナイジェリア戦ではこの2人が4-2-3-1の2に入って若手のクラマリッチがトップ下、マンジュキッチが1トップ、ペリシッチが左、レビッチが右という布陣で、ほぼ中盤を圧倒、守備は基本ブロック守備だが、結構ゲーゲンプレスもかけていて、リトリートとプレッシングのバランスがよかった。チーム全体としていくときと待つときの意識が合っているというか、この辺はモドリッチラキティッチのIQが高いので、この2人がいったらいく、リトリートしてきたら網かけて待つという感じでスイッチを切り替えているのかなと。ゲーゲンプレス自体でボールが狩れることはあまりないのだが、苦し紛れの縦パスを回収して落ちてきたモドリッチかラディッチに預ければ、前線の4人が走りさえすればそこにボールが出てくる、そんな感じだった。

 

 一方のアルゼンチンは初戦メッシのPK失敗などあって、アイスランドとドロー。メンバーを3人変えてシステムも4-4-2から3-4-3に変えてきていた。後付けでみれば、このシステム変更がかなりアルゼンチンにとっては不利に働いたなと。

 多分アルゼンチンは1戦目のあとのチームのコンディションがかなりネガティブでなにかを変えないとまずいという空気だったのかもしれないけど、ナイジェリア戦で4-2-3-1だったクロアチアはクラマリッチを外してブロゾビッチを入れた4-1-4-1に変えてきた。クラマリッチマンジュキッチと実質2トップだったのに対して、今回は完全なマンジュキッチの1トップ。クロアチアのタディッチ監督はアルゼンチンのシステム変更を予測していたかどうか、むしろブロゾビッチをアンカーにすることでバイタルの人口密度を上げてメッシの使えるスペースを消しにきたんだとおもうけど、クロアチアの前線がマンジュキッチ1人になったの対してアルゼンチンはDFを3人残していて、中盤から前で2人の数的不利。

 中盤は守備時にはクロアチアの両ウィングが落ちてきて4枚、アルゼンチンの中盤もウィングバック2枚とセンター2枚で4対4の同数のマッチアップ、特にセンターはモドリッチラキティッチの2枚に対してマスチェラーノとアクーニャの同数では勝負にならない。そこを抜けてもバイタルにはブロゾビッチが構えていて、メッシの足元につけてもカットインするスペースをあらかじめ潰してあるので、なかなか決定的な展開にならない。

 そのメッシも含めたアルゼンチンの前線3枚に対してクロアチアは4バック、メッシは一応右ウィングというかクロアチアの左サイドバックセンターバックの隙間のメッシのいつものホームポジションを中心に自由に動く。本来3-4-3で4-1-4-1とマッチアップするならウィングは両サイドバックにマッチアップしないといけないのだが、クロアチアの左サイドバックが高めの位置に入ってもメッシがそれを追いかけてくるわけもないし、そもそも近くにいないことも多いし、そんな仕事をメッシにやらせるのは無駄でもある。

 アルゼンチンのウィングバックは本来クロアチアのウィングを捉まえるべきなのだが、サイドバックが高めに入ると自軍のウィングとペアで対応すべきなのか(セオリーではそうだが、実際には降りてこない)、3バックのボールサイド側の選手とペアを組むのかはっきりしておらず対応が後手になっていた。

 また中盤が同数なのでマスチェラーノあたりがDFからボールを引き出そうとおもって降りてきてもモドリッチラキティッチがついてくるので、ほとんどの場合ボールを前に出せず最終ラインに戻していた。

 結果的にDFから中盤になかなかボールがつけられない。アルゼンチンはセンターバックが2枚余っているので、そこがドリブルで持ち上がって、ウィングバックか前線の選手の足元につけるのがほぼ唯一の組み立て。アルゼンチンのセンターバックにドリブルで一人交わしたり、前線の足元にピタリと縦パスつける技術はないので、クロアチアはアルゼンチンのセンターバックが持ち込んできたときにはやらせておいて縦パス入ったところで刈り取る。それでもメッシとかアグエロは個人の技術があるので、それでなんとかしてしまえる場面は結構あったのだが得点には至らず。

 

 カバジェロの華麗なミスパスは、あれはもうあのレベルのキーパーしかいないということ自体が問題なので、この試合への入り方でどうにかなるものでもない、川島と同じ。ただアルゼンチンはアイスランドと引き分けたのが余程堪えたのか、試合の入り方がベンチも含めてナーバスだった印象、失点した後は全員がカッカきてて、オタメンディなんか今季プレミア最高のセンターバックという評価だったのに、完全に以前の荒いだけの選手になってた。サポーターも1点取られただけで意気消沈してたから、多分今回のチームに自信がなかったんじゃないかという気がする(失点の仕方が悲惨だったせいもあるだろうけど)。

 

 そのあとはモドリッチの個人技とカウンターで2失点して試合終了。結局のところメッシ中心のアルゼンチン代表というのが絵に描いた餅だったのかなと。メッシ自身も12歳でスペインに渡ってからバルサ一筋なわけで、大体アルゼンチン代表って監督も含むてボカ出身者中心かリーベル出身者中心かで組むケースがほとんどで、外様のメッシが余りにも隔絶した存在過ぎて、それでも彼を中心にせざるを得ないところが泣き所だったかなと。前回も準優勝までいったけどメッシがハマってたかというと全然そんな印象ないし。アルゼンチンのサッカーって伝統的にドリブル主体で、とにかくドリブルで突っかけて詰まったら誰かに渡してまたドリブルで突っかけるサッカー。メッシ自身のコアスキルはドリブルだけど、バルサのサッカーはアルゼンチンとは全然違うからね。

 

 今回予選でメッシの置き場所を探して4-4-2の2トップの一角になんとか収めたけど、アイスランド戦で相手のブロック守備にガッツリはまっちゃって機能しなかったから3-4-3に変えたら、もう完全に組織的な機能不全になってメッシを活かす云々以前の問題になったと。

 もし3-4-3でメッシを起用するならウイングじゃなくてセンターフォワード(偽9番)にするか(そうするとアグエロが出られない)、バルサみたいに逆サイドのウイングが守備時には中盤に降りて、メッシとアグエロの2トップを残した4-4-2に変形させるかしかなかったと思うけど、後者は今回のアルゼンチン代表がぶっつけ本番でやるには難易度が高過ぎたと思う。

 サンパオリ監督ほどの戦術家がこの程度のことわからないはずもないので、結局メッシの存在がでか過ぎてアルゼンチン代表を取り巻く環境が政治的になり過ぎたんだと思うんですよね。もの凄いプレッシャーとノイズのなかで形を整えるのが精一杯で、とてもチームを洗練させて積み上げられるような状況でもなく、実質的にはスペイン人(というかカタラン)のメッシをアルゼンチン代表の中心にするっていうミッションが破綻した。メッシも選手として飛び抜けてても、パーソナリティという面で代表でのアウェー感を払拭できるほど強いものを持っていない。

 

まあまだ可能性的にはアルゼンチンの16強入りは消えたわけじゃないけど、このメッシとアルゼンチン代表の関係って結局ずうっと続いてる問題だと思うし、前回準優勝という結果を残してもなんだか解決されないなかったなあと。

 もしもカタルーニャ代表が実現していたら、もしかしたらメッシのワールドカップは全然違う歴史を辿っていたのかもなあとか思います。